読書感想文 『ダークマザー』岬裕著
自分自身を改造することで人間を超えたプログレスたちが闊歩する神戸の裏社会が舞台。彼らの中で神と呼ばれるプログレスと、遺伝子的に人間を超えたデザイナーベイビーの最終決戦までを描くサイバーパンク。
まず序盤の疾走感に圧倒されます。作者にグイグイと引っ張られていく感覚で読みました。これはほとんどの文章が進行形で書かれている効果でしょう。勉強になります。
中盤から後半はサスペンスになります。誰が味方で誰が敵なのか? 本当のことは何か? 登場人物の記憶の改ざんによって嘘と真実が入り乱れ、スリリングな展開になっていきます。引きが強く、気が付くと時間を忘れてページをめくっていました。
最後は誰が神なのかを決める迫力のバトルで終わります。
一貫してダークな雰囲気に包まれた作風で、神戸という地方都市の話なのに、スケールの大きな世界を見ている感じでした。ロック音楽のところや、ダークマザーのくだりなどは尻切れトンボのように思いましたが、そんな小さなことは気にならないくらいのめり込んで一気読みしました。大変面白かったです。
この『ダークマザー』はWITノベル部門応募作で、わたし個人的には受賞の最有力候補と見ていましたが、残念ながら選外でした。結果発表後すぐにKDPから取り下げられたようで、今では新規に読むことができません。kindle出版は誰でも手軽にできる一方で、この本のように作者の裁量で簡単に取り下げることもできてしまいます。KDPの世界にはすばらしい世界観の作品が一杯あるわけですが、読めるときに読んでおかないと、この本のように後から読めなくなって後悔することがある、ということをこころに留めておきたいです。一期一会、ということを。
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