2025.08.22 23:26読書感想文 『クロノスはまだ墜ちていない: 玩具館の殺人』 紫月悠詩(著) 浪人生の小山内と、彼の家庭教師である天祐が、玩具館と言われる屋敷で消えた美術品の行方と、大時計が落ちた謎を追う。そして魔の手は、玩具館の主人(社長)にも伸びる。ふたりは、この事件を解決できるのか。 本格ミステリでは、○○館殺人事件というカテゴリがありますよね。一風変わったお屋敷内で起こる事件、という定番シチュエーションです。本作もそのカテゴリに属する長編ミ...
2025.08.08 04:46読書感想文 『謎の彫刻』 松本英隆(著) 高校時代の恩師が亡くなった。手紙で報せを受けた西村洋一は、急ぎ先生の実家を訪ねる。先生のアトリエには、多くの遺作がそのままになっていた。そのなかに、明らかに他とは違う未完成の石膏像があった。西村はその石膏像に惹かれ、モデルと制作過程を調べ始める。 彫刻家の制作過程の謎を探る創作系ミステリ小説です。中堅の彫刻家である沢井先生が急死し、教え子の大学院生西村がア...
2025.08.02 07:59読書感想文 『この世界は、誰かの“欠如”でできている: ──哲学と記憶が交錯する、感情喪失系ミステリードラマ』 君りん(著) 感情の乏しい男子高校生、透。彼しかいない哲学部に、転校生の澄乃が入部してきた。幾多の問答を通して彼の感情が少し揺れる。そして澄乃はいなくなった。 最近、精神と現実をいったりきたりするような内容の小説が増えてきたんでしょうか。もしくはわたしが目にすることが多くなっただけで、昔からそうだったんでしょうか。こういう設定の小説は、SFに寄るかファンタジーに寄ること...
2025.08.01 22:55読書感想文 『白い人魚(T大法医学教室シリーズ)』 桜坂詠恋(著) 警視庁で土下座して再調査を懇願する男性がいた。しかし捜査一課長はけんもほろろ。気の毒に思った高瀬警部補は、その男性の話を聞くこととした。男性は、娘が自殺として処理されたことが納得できないという。捜査資料を見直していくと、かすかに引っ掛かる点が出てきた。高瀬は密かに再捜査を始める。 難事件の捜査をストーリーの軸とする警察小説です。主人公高瀬、相棒の柴田、鑑識...
2025.07.26 07:29読書感想文 『虚構都市: レヴナント・エコー』 入江博幸(著) テクノロジーで世界を管理するクロノス社と、それに反抗する人たち。圧倒的な力で不満分子の抹殺を図るクロノス社は、なぜこの世に生まれたのか。 短編が4篇で、それぞれが補完し合ってひとつの大きなストーリーとなるハードボイルド的、サイバーパンク的SF小説です。自分は最後の短編を読むまで、それぞれのストーリーが関連していることに気付かず、別々の短編だと思っていました...
2025.07.05 04:50読書感想文 『ブルーライト横濱ハイツ』 島吹 丈(著) 大学生のころ、先輩に誘われて一年だけ、寮のようなアパートで暮らしたことがあった。アパートの名前は、ブルーライト横濱ハイツ。そこは、汚くて、変な人が多くて、プライバシーもなく、そして若者の夢が充満していたアパートだった。 主人公の鬼塚は定年間際のおじさんで、仕事中にふと、大学時代のことを思い出し、その記憶をたどっていくというストーリーの青春小説です。このハイ...
2025.06.29 01:05読書感想文 『扉 比嘉警部シリーズ 』 川内 祐(著) 宅配ピザのアルバイトの薮田は、あるマンションに住む女性宅にピザを届けた。次の日、その女性が変死体で発見された。事件を担当する比嘉警部は、玄関に手付かずで置かれたままのピザに違和感を持つ。 事故死、と見過ごされそうだった変死事件を、そこに置かれたピザの違和感、という警部の勘というもので掬い上げ、事件の真相を丹念に捜査していく警察小説の短編です。実際の事件調査...
2025.06.21 09:37読書感想文 『101点の犯罪: 名探偵 風泉俊馬シリーズ』 小川修身(著) ソフトウェアエンジニアの荒川が、旅行先で崖から転落死した。警察は、酒に酔って転落した事故死として処理をしたが、荒川の母親はそれを信じず、息子は誰かに殺されたのだと、探偵事務所に相談する。調査を担当することになったのは、風采の上がらない風泉という若い探偵だった。 頭ボサボサに無精ひげ、着ているのもヨレヨレの薄汚れたコート、そしてちょっつ抜けているような行動を...
2025.06.15 03:11読書感想文 『悦楽の休日: 僕と、俺と、あたしと、わたしのこと』 柏木 海(著) 出雲渚(男)は、高校の同級生だったという男に、あるパーティに参加しないかと誘われる。参加費は120万円。ただ初回は無料で参加できるという。渚は思い切ってそのパーティに参加した。そこで彼の出会った人々とは? たいへんおもしろい設定のSF小説でした。量子論における多世界解釈、いわゆるパラレルワールドを使った設定ですね。わたし、寡聞にして知らなかったのですが、あ...
2025.06.11 11:37読書感想文 『奇習の村』 深月 暁(著) 地方の風習などを取材しているフリージャーナリストの矢崎のもとに、差出人不明の手紙が届いた。手紙には、ある村には秘密の風習がある、と書かれていた。矢崎は手紙の内容に興味を持ち、山奥の村に向かった。 世間から隔絶した村の風習、といえばホラーの定番シチュエーションですね。余所者を寄せ付けない、受け入れないという『村』のイメージが、近寄りがたい場所、近寄ってはいけ...
2025.06.07 06:53読書感想文 『ぼくらの街の捜査本部: この街に事件は舞い降りた』 赤石紘二(著) 大雨によって道路が寸断された過疎の村で、殺人事件が起こった。頼れる警察官もいない。定年後にこの村に移り住んできた元刑事の安藤は、村人ともに事件の真相を追う。 大雨で道路も通信網も遮断されてしまった村を舞台にした、クローズドサークルものミステリ短編です。元刑事と元警視庁副長官の引退ジジイふたりが、昔取った杵柄で事件を捜査して解決に導いていきます。怪しい人物が...
2025.06.04 12:03読書感想文 『ロンドンのサムライ』 天堂晋助(著) 19世紀末、ロンドンでひとりの日本人が賭け拳闘試合に出場した。相手は、痩せた日本人の二倍以上も体格差のあるモンスターのような男。痩せた日本人の勝ち目はないように見えた。しかし観客のジャックは、有り金全部をその日本人に賭けてしまったのだ。なぜかは自分でもわからなかった。 日本では幕末の頃のロンドンを舞台にしたアクション小説です。薩摩藩士で剣の達人でもある矢作...