読書感想文 『扉 比嘉警部シリーズ 』 川内 祐(著)
宅配ピザのアルバイトの薮田は、あるマンションに住む女性宅にピザを届けた。次の日、その女性が変死体で発見された。事件を担当する比嘉警部は、玄関に手付かずで置かれたままのピザに違和感を持つ。
事故死、と見過ごされそうだった変死事件を、そこに置かれたピザの違和感、という警部の勘というもので掬い上げ、事件の真相を丹念に捜査していく警察小説の短編です。実際の事件調査をイメージできるような筆致で、短編ということもあって、最後まで一息で読んでしまいました。派手さはありませんが堅実で実直な内容でした。おもしろかったです。
どれだけ尖っているか、どれだけ奇抜か、どれだけ外しているか、などなどこれまでにないという派手さがある人、物が目立つのが、この現代社会の常です。一方、そういう強いウリがない人、物は注目されにくいですよね。創作界も同じ状況にあって、地味な作品は派手な作品の陰に隠れて埋もれがちになります。わたしの書く小説も地味目なので(笑)、いつかもっと派手な小説を書いてやろう、と思ってがんばるのですが、作風は個性みたいなものなので、そうそう変われるわけでもありません。それに、この社会も派手さだけでは回っていなくて、地味な縁の下の力持ちがあってこそ支えられている、ということを忘れてはいけないとも思うのです。これは創作も同じではないかと。光の当たらないようなところにも雑草は生えるのです。そんな雑草でも、小さな花を咲かせることもあるでしょうし、花が咲かなくてもその根は土を耕し、枯れた葉は虫の餌にもなるわけです。こういう真面目な作品を読んで、そんな若干自虐的なことを考えてしまいました(笑)
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