読書感想文 『悦楽の休日: 僕と、俺と、あたしと、わたしのこと』 柏木 海(著)
出雲渚(男)は、高校の同級生だったという男に、あるパーティに参加しないかと誘われる。参加費は120万円。ただ初回は無料で参加できるという。渚は思い切ってそのパーティに参加した。そこで彼の出会った人々とは?
たいへんおもしろい設定のSF小説でした。量子論における多世界解釈、いわゆるパラレルワールドを使った設定ですね。わたし、寡聞にして知らなかったのですが、あとがきによると、こういう設定の作品が過去に結構あるんだそうです。例えば、藤子・F・不二雄先生の「パラレル同窓会」という短編など。わたしもこういった量子論的世界観は大好物(拙作『思想物理学概論』)で、本作の世界観とは異なるのですが、世界は分岐せず現在時間に収束しているのではないかと個人的には考えています。この世界は自分が観測しているから存在している、という人間原理ですね。
SFとファンタジーの境界は、目の前の出来事を科学的に説明するか否かにあると思っていまして、そういう分類をすると本作はSF小説になるんだろうなと思います。ストーリーの基本線はパーティでの出会いとロマンスなのですが、そのパーティに至るまでの科学的説明のわくわく感がとても良かったです。本筋のロマンス部分は究極のナルシシズムで、読みながら自分に置き換えて考えてしまって、ちょっとキモいなと思ってしまいました(笑)。
表編は純愛、裏編は凌辱とということでしたが、全体に読みやすく、そこはかとない品を感じる筆致でしたので、全部通して普通に読めました。おもしろかったです。
Amazonリンクがエラーになってしまいましたので、表紙画像をダウンロードさせていただきリンクを貼りました。
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