読書感想文 『クロノスはまだ墜ちていない: 玩具館の殺人』 紫月悠詩(著)
浪人生の小山内と、彼の家庭教師である天祐が、玩具館と言われる屋敷で消えた美術品の行方と、大時計が落ちた謎を追う。そして魔の手は、玩具館の主人(社長)にも伸びる。ふたりは、この事件を解決できるのか。
本格ミステリでは、○○館殺人事件というカテゴリがありますよね。一風変わったお屋敷内で起こる事件、という定番シチュエーションです。本作もそのカテゴリに属する長編ミステリ小説です。登場人物もこれまた癖の強い人たちばかりという、これもミステリの文脈に沿った設定で、ミステリ好きにはうれしいポイントです。
東京大学理科一類を狙っている割にITが何の略かわからない、という小山内君。ストーリーは、少しお間抜けな彼の目線でつづられます。ワトソン的道化回しの役回りです。探偵役は天祐という美人家庭教師。もちろんクセ強。テンポの良いふたりのボケとツッコミも楽しいです。そんな彼らが、ある玩具メーカー主催のミステリイベントに参加して、そこで起こる怪事の謎を探るという筋書きです。イベントで仕掛けられた謎(消えた美術品の行方と犯人)と、イベント主催の社長を狙う怪事(時計が落ちるなど)が並行して発生し、それらの謎を科学的に、論理的に解きほぐしていくのが見どころになります。ただ、それぞれの事件と犯人の思惑が違うため、かなり入り組んだ構成になっていて、自分の頭では完全に理解できたかどうか怪しいです(笑)。しかもかなりの長編ですので、ついていくのが大変でした。個人的には、もう少し事件と謎を絞って、分量も三分の二くらいにしてくれたら、読みやすかったかなあと思いました。
さて、本作を読んで一番勉強になったのは、豊富な語彙でした。おそらく普通は使わないような言葉が大量に出てきます。例えば、一ページ目から早速「戛然《かつぜん》」「嚆矢」が出てきます。これくらいならぎりぎりわかりますが、「端座」とかわかりますか? 正座のことですよ。ページをめくるたびに、「瞰視《かんし》」「蜘網《ちもう》」「嬋娟《せんけん》」などなど、こういう難しい言葉が目に飛び込んできます。たまに出てくるくらいなら、作者はこの言葉を使いたかったんだろうな、と思うだけなのですが、こう頻繁にしかもこれでもかといろいろ出てくると、作品の雰囲気すら変わってくる効果があって、普通の現代的なミステリが、知的で懐古的で耽美的な一段上の作品に見えてきます。それが外面(カバー絵や紹介文など)からわからないところがまた「秘すれば花」的な良さになっています。みなさんにもぜひ、この独特な世界観を楽しんでもらいたいです。おもしろかったです。
Amazonリンクがエラーになってしまいましたので、表紙画像をダウンロードさせていただきリンクを貼りました。
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