読書感想文 『魔女の幻想と密室: 双子島殺人事件 』古雅鶴夢工房著

 探偵 千葉平八のもとを訪れた九条瑠璃という若い女性。彼女はある儀式の後に自分が殺されることを予見し、それを阻止するために平八にボディーガードを頼みにきたのだった。彼女が受ける儀式は、九条家に代々伝わる魔女の儀式であり、15年前に彼女の母も受けていた。そして母はその儀式の直後に密室で魔女によって殺された……15年の時を経て、その因縁が九条瑠璃に襲い掛かる。双子島で次々と起こる密室殺人。犯人とされる魔女は一体誰なのか。

 平成の世のミステリらしくパソコンやホームネットワークが出てきますが、絶海の孤島といい、魔女伝説といい、予言といい、昭和の雰囲気を漂わせる古典的本格ミステリです。横溝正史ミステリのような不気味な雰囲気をリアルに作り出すことに成功しています。

 双子島にある九条家屋敷で次々と起こる不可能殺人。その現場に居合わせたのは九条家の人々と、客として島に来た探偵 平八たちです。しかし当事者家族であるはずの九条家の人々は、どこか醒めた態度を取ります。その一方、探偵 平八をはじめとする学生たちは大げさともいえるほど感情を露わにします。この対比により九条家の異常性を際立たせています。うまいです。

 密室殺人は3つ(15年前も含めると4つ)もあり、どれも不可能と思える状況で行われます。しかも予言通りに。こんなことができるのは宙を浮く魔女しかいないと、登場人物だけでなく読者も翻弄されるはずです。そして解決編では、新たな探偵の誕生とともに15年前の事件も含めてドラマティックに終結します。白一面だったオセロが次々と黒にひっくり返っていく、そんなカタルシスを覚えるほど見事な展開です。全てが解決した後に訪れる真実もあり、最後までひっくり返してくれます。

 本格ミステリはトリック重視で動機が薄い(連続殺人を犯すだけの理由が見えない)ことが弱点と個人的に思っているのですが、本作では九条家の異常性のために魔女にならざるを得なかった犯人の心情まで上手に描き出しています。本作を読んで『すべてがFになる』(森博嗣 著)を思い出しましたが、個人的にそれより頭一つ抜きん出ている点だと思います。

 かなり長いですが夢中になって読みました。たいへんおもしろかったです。この面々によるシリーズを希望します。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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