読書感想文 『クレイジーソルトシティー』 乙野二郎(著)

 中学の時の同級生から電話があった。死んだら遺産をもらってほしいという。(『永遠』) 縁日で大道将棋をしていた真剣師の棋太郎が賭け将棋で捕まった。(『棋太郎伝』)


 10篇のショートショートと2篇の短編集です。わたしがとくにいいなと思ったのは、同級生の遺産をもらうお話『永遠』と真剣師『棋太郎伝』です。『永遠』は作者のあとがきを含めて余韻が心地良く、『棋太郎伝』のほうは賭け将棋の雰囲気がリアルで棋太郎のキャラも立っていて、いずれももっと長く読んでいたいと思いました。ショートショートではもったいなく、お話をもっと膨らませることができるんじゃないかなあ、特にミステリ方面に。

 本書のいずれも結末を読者に委ねるタイプの小説でしたので、モヤモヤする人が多いかもしれませんね。オチでオチない小説といえば個人的に『芋粥』(芥川龍之介)が真っ先に思い浮かぶのですが、『芋粥』はオチない代わり物語を締めています(芋粥を飽くほど食べたいと願っていた自分を思い出す)ので読者にいろいろ考えさせるという小説になっています。本書の短編の多くは結末が開いたままですので、そこで読者の没入感・感情移入がぶつんと分断されてモヤモヤするんじゃないかなあと、僭越ながら思った次第です。枚数が少ないので難しいのかもしれませんが……。

 ガバスとペリカが一瞬出てきて、クスリとしました(笑)。おもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

近未来SF小説『エンタングルメント・マインド』シリーズの特設サイトです!

0コメント

  • 1000 / 1000