書評 『荒木飛呂彦の漫画術』 荒木 飛呂彦(著)
人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の作者が、キャラクター、ストーリーの作り方など王道漫画の描き方について、自著を使って具体的に解説する。
本の冒頭で荒木先生は、この本を書く目的として、漫画を描くための『地図』と、王道漫画という頂点に向かうための『黄金の道』を、漫画家を目指す後進に遺したい、と書いています。言い回しが最初から荒木節っぽく、熱くてカッコイイです。
「これはある意味、マジシャンが手品の種を明かすようなところもあり、本当は隠しておきたい伝家の宝刀も含まれています。これまで独占してきたアイデアや方法論といった企業秘密を公にするのですから、僕にとっては、正直、不利益な本なのですが、それでも書くのは、それを補って余りあるほどの伝えたい思いがあるからです」
読むほうも荒木先生の思いをしっかり受け止めなければ!と思いますね。
わたしはこの手の創作論、テクニック、ハウツーなどの本にはうさん臭さを感じていて、これまでほとんど読まなかったのですが、自分が漫画『ジョジョ』のファンで荒木先生を尊敬しているということもあって、つい読んでしまいました! 結果、漫画家に向けた解説本でありながら、わたしたちのような小説を書く人にもお勧めできる創作ハウツーが一杯でした。
例えば……
「最初の一ページをめくらせろ」
「読みたくなるタイトルを探せ」
「他人が描いていない分野に踏み込む」
「基本四大構造(キャラクター、ストーリー、世界観、テーマ)のバランスをとれ」
「よい動機をつくる」
「主人公と敵役は対比させる」
「身上調査書を作る」
「ストーリーのために主人公を変化させてはいけない」
「主人公は常にプラス」
「はまってはいけないマイナスの誘惑」
「壁にぶつかるはダメパターン」
「見えないものを可視化する」
「同じ絵ばかり描いていたら時代遅れになる」
「ムードで勝負できるのは天才だけ」
「テーマはぐらつかせない」
「売れるテーマから考えるのは間違い」
「自分と違う意見について興味を持つ」
「描いたものは忘れる」
これだけ読むと、なんだ他の本と言っていることが同じじゃないか、と思われるかもしれません。ですが、本書は超売れっ子漫画家荒木先生が書いているのです。デビュー当時の手探りの創作や、新人時代の苦労、そして『ジョジョ』に至る黄金の道……大成功を治めた人がその時々で実践してきた方法や心構えなどが具体的に書かれています。説得力が違います。わたしは荒木先生のことを何も考えなくても『ジョジョ』のような作品を描けてしまう天才だと思っていました。いや、天才なんでしょうけど、その創作の裏にはわれわれ凡人と同じような悩みや苦労があったんです。わたしたちと同じようなことで悩みまくっていた荒木先生も同じ人間だったんです! しかしそれを次々と打破していくところはさすがです。その方法論こそが、この本で言うところの『地図』なのです。
さて詳細は本書をじっくり読んでいただくとして、わたしにとって目から鱗だった「主人公は常にプラス」について紹介します。
荒木先生は、ヒット作の主人公はずっとプラスであると言います。主人公は負けてはいけないんです。絶体絶命の場面でも、舐めプしてても、毎回必ず勝たねばならないということです。ストーリー展開で苦しくなってくると、つい一回負けさせて、そこから成長させようと思いがちですが、それはダメパターンだと言い切っています。マイナス・プラスを行ったり来たりしたら、読者はマイナスのところで見限るそうです。『ジョジョ』第一部でも、序盤ジョナサンはディオに負け続けるというマイナスからスタートしました。この序盤は読者人気が全然上がらなくて随分と気を揉んだといいます。そのあとは、ジョナサンもディオもずっとプラスのストーリーで読者人気もアゲアゲになって一安心したとのこと。連載漫画の難しさですね。
「読者が読みたいのはサクセス・ストーリーであって、主人公は困難に立ち向かいながら、どんどん上がっていくところなのです」
気持ち良いくらいエンターテイメントに振り切った考えです。エンターテイメント小説を書くときには頭に入れておこうと思いました。
本書はヒット作の秘密を書いているということだけでなく、創作の王道、『黄金の道』についても教えてくれます。
「漫画というものは、描く人の心から湧き上がる情熱が描かせるもの」
「(この本は)地図を示しただけであり、さらに発展していくために『黄金の道』は続いている」
情熱と継続、この二つこそが創作の『黄金の道』であると、改めて思い出すことができました。
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