読書感想文 『藻屑蟹』赤松利市著

 第1回大藪春彦新人賞受賞ということで期待して読みました。うーん、これはいろいろな意味で問題作でした。

 主人公はパチンコ店で働く青年。日々の生活に鬱屈し、やり場のない怒りは原発避難民への批判となって文章に現れています。物語の前半は、原発慰謝料や賠償金をもらい我が物顔で振る舞う避難民を痛烈に批判する内容になっています。そして後半は、その原発事業に転職しつつ、悪事に手を染めようとする主人公の葛藤を冷徹に描きます。結局、嘱託殺人を犯すわけですが、そこに至るまでのこころの交流も物語のアクセントとなっています。

 ここから批評です。前半、原発避難民への批判をかなりエグく書いてありますが、これは必要だったのでしょうか? 物語上の必要悪というなら仕方ありませんが、わたしにはただショッキングに書きたくて書いたとしか思えませんでした。そして後半の主人公のこころの揺れ動きも唐突に感じました。前半では、金が欲しいとあれほど執着をみせていたのに、後半は金への執着が急速に消えていく、そのあたりの書き込みも不足していると思います。そして最後のオヤジさんを使った金儲け話。これがとってつけたようなトンデモストーリーで、それまであったリアリティを台無しにしています。

 とはいえ、さすがに新人賞を受賞しただけあって、人々の関心を惹きつける内容は素晴らしいと思います。著者は、仕事で執筆時間が無くなるくらいならホームレスに戻ると宣言されています。62歳でその心意気は見習いたいです。著者の今後のご活躍に期待いたします。

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