読書感想文 『悪魔とドライヴ』杜昌彦著

 バー「 Ω」でバイトする高校教師の辻先生と教え子海道ちありを中心にめぐるハードロマンス。Ωと名乗るインディーズ作家がネット上で話題となり、最後は身内による「祭り」で派手に散る、という破滅型の終わり方。

 序盤は無気力退廃的な辻先生が、直情的な愛のカタチしか知らない海道ちありに出会い、互いに認め合いながら(このへんのこころの動きは一言では言い表せない)徐々に変わっていく。このあたりが見どころです。その二人にそれぞれの出自が影響し合っていきます。ほかにも一癖も二癖もある登場人物が出てきます。思春期の少年が堕ちていく過程にもこころをえぐられます。

 現実にはほとんどありえないストーリーラインに思えますが、ありえるかもと思わせる筆力は見事です。そして作品全体に漂うニヒルな雰囲気に圧倒されました。作品を通してアウトサイダーの叫びが聞こえてくるようです。これは作者のこころの叫びなのか? と思いながら読んでいました。正直、作品と作者は切り分けて読むことが普通なのですが、作中「Ω」に興味を持つ編集と同じように、わたしもこの作者に興味を持ちました。

 少し違和感があったのは、辻先生が後半からカッコよすぎたこと。もっと泥臭く生きてほしかったとも思います。ただこれは好みの問題でしょう。作中の人物の生き方にまで想いを馳せることができるのも、この作品が只者ではないことを示しています。

 自分にはこれは書けない、ここまでさらけ出せない、素直にそう思います。

 布団の中で読んで、そのまま寝たらうなされました。久々の読書体験でした。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

近未来SF小説『エンタングルメント・マインド』シリーズの特設サイトです!

0コメント

  • 1000 / 1000