読書感想文 『従属する生命への伝言』皆方コウ著

 AIがその人の個性に合わせた生き方を提示し、それに合わせていけば成功することができるという近未来の世界。樹木医を目指す学生ミチオはAIの指示に従い、ダニエルという少年とある島に渡る。そこでは植物が異様な進化を遂げていて、到着したミチオたちに次々と襲い掛かってくる。その原因は何なのか? プラントアニマルたちの目的は? 果たして生きて島から脱出できるのか? というハラハラドキドキのストーリーをミチオの語りで紡ぐ生物系SF。

 全般にゆったりとした読み心地です。植物のうんちくが多く出てきますが、会話の中でさりげなく紹介されるので、スッと入ってきます。他にもSFな設定(メディカルボディ、ブレインペースメーカー、バーチャルインクなどなど)も細かくあって、説明過多気味ではありましたが、なるほどと思いながら読みました。勉強になりました。

 植物からエネルギーを得て生きている動物・人間の存在は砂上の楼閣にあるんだなと改めて考えさせられました。読み終わった後も、タイトルにもなっている従属する生命である人間の存在意義をどう捉えるか思いめぐらせました。

 作風は、細やかな心理描写とゆったりとした雰囲気でほのぼのとして読みやすいです。その一方でスピード感と緊迫感が少し薄いかなと思いました。これはこの作品だけの課題ではなく、状況を主人公の語りで説明しなければいけない一人称の課題であると思いました。なかなか難しいですね。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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