読書感想文 『ブレイブガールスープレックス』小林アヲイ著

 勤務する広告制作会社に勢いで退職願を出した主人公(甲斐)と、その甲斐になぜかつきまとうアラサー女子(二宮)のドタバタコメディ。小説家になりたいと言い訳して会社をやめた甲斐は、プロレスラーになるという二宮の真っすぐ熱情に、うっとうしいと思いながらも徐々にほだされていきます。

 コメディタッチのお話で終始笑いながら読み進めました。でもテーマはかなり深いですね。夢と現実の狭間に立つ甲斐と二宮のそれぞれが、夢を追いかけることの難しさを感じながらも前に進もうともがく姿は身につまされるようでした。

 とくにグサリときたのは「(書いても)落ち込まないのは、書きつける段階で、作品に自己を投影できていないからだろう。(略)小説を書くに相応しい高みまで登りつめていない」という言葉でした。自分はどうなんだろうと思いながら、ここは何度も繰り返し読みました。

 爽快なお話ではないのですが、軽妙洒脱な筆致でオブラートにつつまれて、読んでいてなんだかこころが温かくなりました。ラストもハッピーエンドというわけではないのですが、登場人物だけでなく読者も前向きにさせてくれる終わり方で、これはこれで良かったなあとしみじみしました。

 現実にいそうな絶妙で魅力的な登場人物、深いテーマをわかりやすく対比させる設定、それでいて読者をひきつけて離さないストーリーライン、とても勉強になりました。おもしろかったです。

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