読書感想文 『隠世ノ物語 第一話・俺の後援者は人じゃない 第二話・狂った美の蒐集者 』新矢識仁著
冒頭、駆け出し画家の青年(春川美樹)が自分の絵の才能に絶望しているところから始まる。そこに牛車姿の朧君が現れ美樹の絵の才能を見出す。その後、美樹と朧君は連続殺人事件の犯人を追うことになる。その陰には朧君のかつての因縁がからみ……というストーリー。
朧君はいわゆる妖怪(あやかし)です。妖怪は隠世に住まい、普通の人間の住む現世には簡単に往来できません。この隠世に関する多くの設定が、物語が進むにつれて徐々に明らかになっていきます。この設定が良く考えられていて、ルールとしてあやかしと人間それぞれの行動を制限しますし、黒幕の目的にもつながり、物語を重層的に見せることに成功しています。
文体は一文が短く頻繁に改行・行間を開ける今どきの書き方で、また登場人物の心情をこれでもかと並べ立てています。くどいと感じる読者の方もいるかもしれません。ですがわたし個人的には、ページ数の多さを感じることなく飛ぶように読めて、心情にも共感できましたので、電子書籍という媒体においてはこの文体は合っているなと思いました。
このエピソードでは、あやかしたちが万能すぎて、ピンチらしいピンチに陥りません。人間(黒幕ですら)もあやかしに太刀打ちできないので、ハラハラ感が少し不足していたかなと思いました。ただこの感想は期待の表れと思ってください。
一気に読みました。おもしろかったです。
0コメント