読書感想文 『止まない霧 』初瀬明生著
実家に帰省した青年(上沼健太)は、雨の中である女性を見かける。それをきっかけに、高校の時に出会った少女(加藤知子)を思い出す。雨の中の女性がかつて淡い恋を抱いた知子なのか、もんもんとする健太。そしてある事故が起き、健太は自ら巻き込まれていく。
外面はまじめな健太は、その内面が安きに流されるダメ人間であることを自覚しています。自覚しているだけマシなのですが、それでも健太のウジウジした感じにイライラしながら読みました(笑)。でもそれは誰しも持っている弱みです。わたしも持っています。だから自分をみるようでイライラしていたのかもしれません。もし健太が友人であるのなら、精神的に向上心のない者はばかだ(『こころ』夏目漱石)、夢を追わない人間はキャベツと同じだ(『世界最速のインディアン』)といった言葉をぜひ掛けたい、そう思いました。
流されるように自ら事故に巻き込まれに行くところなど、健太のこころを知ることのできる読者なら「バカなことはやめとけ!」と言いたくなるわけですが、こころの見えない劇中人物から見ればヒロイックな行動になるのですね。ヒーローの裏側を垣間見る様なやるせない読後感でした。
ただ健太の行動でどうしても許せないのは、今の彼女を自然消滅だといっていとも簡単に切り捨てるところです。ここは『燃えよペン』第7話起承転結激情編を思い出しました。
全般に、街にかかる霧と健太のこころの靄をうまく重畳させ、五里霧中な雰囲気を出しているところはうまいと思いました。おもしろかったです。
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