読書感想文 『不器用なアナログレコードの挑戦 』奥田徹 著

 青年の勤める会社が突然倒産した。途方に暮れる青年のアパートに、深夜喫茶で知り合った夕子が転がり込んでくる。夕子もまた、働いていた深夜喫茶が突然閉店し行き場を失っていたのだった。その二人の前に超大金持ちが現れ、深夜喫茶から消えた朝子ママを探すよう依頼する。

 謎が謎を呼ぶ展開に引き込まれて読み進めていくと、終盤は(オ)カルト色が強くなっていきます。ですが最後まで興味をそそるストーリーでした。

 読んでいて思ったのは、このミステリ仕立てのストーリーは読者の興味を喚起しお話を読み進めさせるための仕掛けであって、作者が書きたかったのは登場人物の気づきや成長なんじゃないかと勝手にそう思いました。青年は自分の前向きになれない性格を自覚しながらも性格は変えられないこともわかっていて、そこを本当にもどかしく思っています。作者は青年の一人称を使ってその心情を丁寧に描き出しています。夕子もまた、自分のこころの拠り所がないという精神状態を、青年の居候という形で表現しているように思いました。他の登場人物もそれぞれ事情や立場があり、それを主人公の青年の目を通して上手にあぶりだしています。それぞれの心情に、わたし自身も似たところがあるなと自己投影しながら読んでました。

 読書中は、これはいっぱい感想を書きたい!と思いながら読んでいましたが、いざ読了するとスッと自分の中に感動が咀嚼されてしまい、こんな陳腐な感想しか書けなくなってしまいました。すみません。例えるなら、読み味は、紅茶香り高く、読み終わった後はスッキリしています。

 本当におもしろかったです。


 感想を書くにあたり、主人公の青年の名前はなんだったかな?と読み返しましたが、一切出てきません(多分……)。間違いなく狙って書いているのでしょうね。これも読者を青年に投影させやすいような仕掛けなんでしょう。

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