新作長編『カミヅリ!!!』執筆の狙い

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 さて今回は、本作執筆の狙いについて書きたいと思います。

 わたしは短編でも長編でも新作を書くときには必ず新たなチャレンジを作品内に織り込もうとしています。そのチャレンジは、ジャンルだったり、ストーリーだったり、構成だったりするのですが、今回の『カミヅリ!!!』では、表現方法でひとつのチャレンジを織り込みました。

 読んだ方はお気づきかもしれませんが、妙な比喩がいっぱいあったかと思います。これが今回のチャレンジです。狙いは、そのシーンにおける情景を生々しく読者に想起させる、ことです。そのために、違う五感に訴えかけたり、身近なシーンに言い換えたりとさまざまな工夫をしてみました。いくつか例を抜き出してみましょう。


  1. 俺たちを取り囲むように閃光と爆撃音がひっきりなしに周囲を攻撃し、暴風が雨を銃撃のように叩きつけてくる。
  2. 宝くじと同じで、当たり外れがわかるまでが最もヤキモキするものだ。
  3. 自殺するほどの勇気もなく、精一杯に生きるほどの理由もない。生き残るたびに腐っていく。俺は生きながらにして死んでいるゾンビになったのだ。
  4. 手練れのディーラーともなるとヒルのように徐々に金を吸い上げていって、客も気づかないうちに失血死するように仕向けている。
  5. 真っ先にしわがれるはずの手と太ももを見てみろ。こいつのそれは茹でたてのふかし豆のようにふっくらとしている。
  6. 鼻を抜けてくるスモーキーな香りと、海風が運んでくる潮の匂いが、鼻腔で出会ってダンスをし始めた。
  7. 星のいない夜空と泥のような海の境目から、巨大な海坊主が襲い掛かってくるような、そんな夜だった。
  8. 言葉の通じないアジア人の会話を聞いたときのように怪訝な顔をした。
  9. こいつは元男のくせに、浮気を探る女と同じくらい男の表情を読んでくる。
  10. 全く得意満面の顔で俺のほうに向きなおり、ヒーローが決めポーズするかのように俺に向かって人差し指を突き示した。
  11. アザフは犬の服従ポーズで後ずさるが、言葉だけは威勢が良い。
  12. ウラドとフジコが俺の方を横目で見ている。冷めたピッツァを見るような目だ。
  13. ガシャンと皿が割れ、中の赤いボルシチが床に飛び散る。そんなイメージと、アザフの脳みそが床に飛び散るイメージが重なって俺の頭の中を木霊した。
  14. カエルを壁に投げつけて笑っていた俺が、笑ってアザフをぶっ殺せないのはなぜなのか。
  15. 有閑マダムが一時の話題を探すような、あるいはまるで新しいおもちゃを与えられた子どもがするような、そんな眼差しで俺の隣に立つ少女を見つめ、成行きを見守っていた。
  16. ウラドは動物を見るような――そうだな、馬や鹿を見るような、慈しみと憐みが混ざった表情で見下してきた。
  17. ウラドは、暖炉の前で寛ぐ猫がそうするように大きく伸びをした。暢気なもんだ。
  18. フジコはまるで、ブーツが臭わないか確認したもののやっぱり臭かったとでも言いたいようなそんな表情をして、俺の言葉を無視しやがった。
  19. 足裏で感じるきしみ音が、荒野の朽ちかけた吊り橋を渡っているときの恐怖を思い出させる。
  20. 豪華なケーキを前にしたハイスクールの女子が条件反射でそうするように、無邪気な歓声をあげて喜びを表現した。
  21. 振り向いたその顔は、帰ってきた主人に尻尾を振る犬のような表情をしていた。
  22. 自分が言っている内容のおかしさに、大根役者が長セリフをしゃべっているうちに笑ってしまうような感じで、最後はニヤケ顔になってしまっていた。
  23. ウラドとオカダのチェスの対局のような会話が始まった。どちらも相手の意図がわからないから、同レベル同士でチェスをするように、一手一手探り合いながら短い言葉を指していく。
  24. 横目でフジコを見ると、グレた息子を心配する母親のような表情で俺を見つめていた。
  25. 血の代わりに氷水が身体中を巡っている感じだ。タチの悪い風邪を引いたときのような悪寒がする。
  26. あの分厚い雲には何匹もの巨大なヌシが住んでいる。
  27. 猛獣の唸り声に似た咆哮と、ストロボを焚いたかのような白い光が絶え間なく飛び交っている。そこには神の住む天上界があった。
  28. まるでヒルが血を吸うように、山のエネルギーを吸い取っているのだ。
  29. ランクルは悲鳴を上げる代わりに小さくバウンドした。
  30. さっきキスをしたばかりのその唇は、まるで真っ赤なルージュを塗ったように血で染まり、微かに震えていた。
  31. 喉から赤く錆びた釘が大量に溢れてきた、と思ったら血だった。


とまあこんな感じです。拙い比喩かもしれませんが、できるだけ読者のイメージ喚起力を引き出すことにこだわりました。いかがでしたでしょうか?

 本作の文章は一人称視点の独白型で書きましたが、これは短編『ランチメイト』でチャレンジした文体です。同じように、今作でチャレンジしたイメージ喚起のつくりかたも、きっと次作に活かせるはず。

 次作の内容はまだ未定なのですが、チャレンジすることは決まっていて、次はスウィングする文章を書きたいと思っています。実は本作でも、例えば次のように少し挑戦したのですが、全体に渡っては無理でした。

  • 地獄で生き残っても地獄が終わるわけじゃない。次の地獄が始まるだけだ。


 これからも、ポルシェと同じく最新の作品が最良と言い続けられるようにチャレンジを続けていきます! そんなチャレンジが詰まったわたしの本たちを、ぜひ読んでみてください!


自作とチャレンジしたこと(執筆順)

ダイバーダウンの世界:小説を書くこと(処女作)

思想物理学概論:サイエンスノンフィクション

エンタングルメントマインドシリーズ:三人称客観視点(地の文にキャラクターや作者の心情を入れずカメラアイのように書くこと)

ピクト*ガール:叙述トリック短編

ランチメイト:一人称独白型短編

ウソつきキライ:本格ミステリ短編

オンユアマーク:テレビ放送風小説構成短編

プロジェクトM:ノンフィクション風小説構成短編

イワシの脱皮:コメディ短編

東名高速247キロポスト(未発表):新本格推理小説

ファクトチェック!:インタラクティブ短編

メターナルライン(未発表):ダ・ヴィンチ・コード的推理小説

カミヅリ!!!:イメージ喚起文章

ビッグBインフレーション(未発表):ナンセンスSF短編

#地蔵旅(未発表):純文学短編

人魚の肉(未発表):密室トリック、どんでん返しの推理小説


エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

近未来SF小説『エンタングルメント・マインド』シリーズの特設サイトです!

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