読書感想文 『誰がための小説か』 平山崇(著)
未解決のまま23年が過ぎた美人OL失踪事件を、今だ追う老刑事。老刑事は、事件の真相を知ると思われる、出版社に勤める西岡史結に狙いを定める。西岡は失踪した福永美代子の恋人だった男である。刑事は、甥の精神科医の協力を得て、西岡をおびき出し、秘密裏に催眠記述を施す。催眠によって、西岡の記憶を本人に筆記させようというのだ。
いくつものメタ的な仕掛けがしてある意欲的なミステリです。容疑者に催眠を施し、本人に小説という形で真相を語らせる、というたいへん凝った構成になっています。作中小説と作中現実がリンクし、それ自体が小説となっているため、空想と現実の境目が曖昧になった不思議な浮遊感を感じました。
ネタバレになるので詳しく書けないのが辛いところですが、非現実(超常現象)な場面もあります。作中現実では、非現実だからこそ小説として受け入れられる、という上手な回避をしているのですが、そのために、若干もやもやした結末になったかな、と思いました。
本作で登場する、記憶を脳から取り出す、というギミックは、現実世界でも実現しつつあって、近い将来には、考えていることや見ている夢を正確に読み取ることができるようになるはずです。そうなったとき、この小説のように、容疑者の記憶を覗いて事件の真相に迫ることができるようになれば、未解決事件も減るのかな、と思いました。一方で、隠したい記憶まで暴くことが本当に良いことなのか、とも考えさせられました。おもしろかったです。
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