読書感想文 『サーバ・ウォーズ』 松元大地(著)
社員管理システム『かまってちゃん』を開発販売している中堅システム会社、松茸システムは毎年9月に全社員での懇親会を開催していた。普通はバーベキューだったが今年はサバイバルゲームをやるという。しかも負けたチームのボーナスは没収、勝ったチームがそれを総取りできるのだ。4チームによる本気のボーナス争奪戦が始まる。
サバイバルゲームというと、参加者それぞれがエアガンを持って大地を駆け巡る模擬戦争ゲームを思い浮かべますが、本作のサバイバルゲームは一風変わっていて、フィールドはネットワーク上、エアガンの代わりにネットワーク攻撃技術を使って、相手PCのシステムを攻撃するというネットワークサーバゲームになっています。この設定がまずおもしろい! 作者はITエンジニアでもあるとのことで、このような特殊な設定をうまく小説に仕立てることができたのだと思います。
小説のリアルさというのは読者が本を選ぶ動機のなかでも結構上位に位置します。読者は別の人生を追体験するために小説を読むわけですから、専門知識に裏打ちされたリアリティのある本を読みたいはずです。つまり我々物書きはそのような小説を書くべきなのだと思います。
この生き馬の目を抜く現代社会で生活している社会人なら誰しも、他人には負けない、生き抜くための知恵・知識を持っているのではないでしょうか。それは仕事や趣味で得られる特殊な専門知識だけではきっとないはず。生活する上でのコミュニケーションのコツだったり、おばあちゃんの知恵袋的なノウハウだったり、さらに本人は気付いていない人生の機微だったりもその中に含まれるんじゃないかと思います。さて自分が書ける知恵・知識は何かな……と、この本を読んでふと自分自身を振り返っていました。
本作はネットワークの知識がなくても雰囲気でわかりますので楽しめると思いますし、その知識があればさらにおもしろいでしょう。まさにリアリティのある小説でした。おもしろかったです。
一点、小説技法で個人的に気になったのは、会話文で同じ登場人物が発言するときに「」「」と連続して表していたところです。普通は同じ人の「」は連続しないので、あれ誰の発言かな? と少しわかりずらくなってしまっていたのがもったいなかったです。
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