読書感想文 『東京パラノイア』高橋翔大 著
夢から醒めなくなる病気「桃源病」は、重症化すると命に係わる。その治療を行うのが潜睡士と呼ばれる医師である。彼らはDIDという装置を使って患者の夢に入り込み、夢に閉じこもってしまった患者を現実世界に引き戻す治療を行う。この潜睡治療のトップランナーが東都医科大の潜睡三課である。あるとき三課に急患が運び込まれる。時を同じくし、日本でクーデターが勃発。続けて日本中でこれまでとは異なる新型桃源病患者が次々と発生する。治療方法は? クーデターとの関係は? 日本の行方は?
前半は映画『インセプション』の医療ドラマ版といった趣です。夢に入り込む装置や、夢の多層構造、その一層二層三層と落ちていくほど時間の進みが遅くなるという設定、夢と現実を区別する小物など、参考にされたのかなと思わせるところが多くあります。ちなみにその小物は『インセプション』ではトーテムという名称なのですが、本作ではフラッグと呼んでいました。フラッグのほうが夢の道しるべという意味では合っていると思いました。設定は『インセプション』に似ていますが、夢に入り込んで治療(カウンセリング)するというストーリーはリアルですし、特に前半は医療現場の人間ドラマとしておもしろかったです。
医療ドラマから一転して、中盤に発生するクーデター騒動から一気に物語のスケールが大きくなってきます。ドラマからクライムサスペンスになっていきます。群像劇になり多くの登場人物が出てきますが、それぞれキャラクターがはっきりしていてわかりやすく、感情移入できました。
終盤は、敵と潜睡士たちの迫力のバトルシーンが続きます。ここは夢と現実の狭間をうまく使っており、非現実のバトルにリアリティを与えています。よく考えられています。中盤から終盤はアニメに向いているなと思いました。
明晰夢とは書いていませんが、これは明晰夢を背景にしたSF医療?小説ですね。表紙のイメージとは全く違う印象で、表紙だけではスルーしていたところでした。夢についてはわたしも一家言ありますので、たいへん興味深く、楽しく読ませていただきました。
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