読書感想文 『ノーファインダー』 大海原琉葵(著)

 ベトナム戦争をライカのみを持って単身取材した経験を持つ大先輩が亡くなった。後輩の内田は、その大先輩が戦場で使っていたライカを手に入れる。しばらくはそのライカのことを忘れていた内田だったが、大先輩の娘に父の形見を使ってくれと言われてからライカの魅力に引き込まれていく。

 冒頭、ライカを持ってベトナム戦争を駆けずり回った思い出話を酒場で披露する大槻(大先輩)の勢いにつられてストーリーに引き込まれます。それが過ぎると、スポーツ新聞カメラマンの内田と、さらにその後輩のユースケの高校サッカー取材の話しになります。ライカが出てくるのは、終盤に差し掛かってからになりますが、そこから一気に物語は盛り上がっていきます。高校サッカーを通して現れる人間ドラマをカメラで切り取る新聞記者(カメラマン)の活躍が新鮮です。こうやって記事が書かれているんだと思うと、新聞も捨てたもんではないなと思いました。

 ライカといえば銀塩カメラの代名詞で、デジカメ全盛の今でもそのブランドは色あせていません。それは積み上げてきた歴史の賜物。このストーリーでもそれがよくわかります。かつてカメラマンは、ライカ一つに命を預けていました。それほど信頼に値する道具だったのです。その信頼は、その後日本の一眼レフ(ニコンF系)に受け継がれ、現在はデジカメに代わりました。しかし、カメラが好きな人にとってはライカとはその歴史によって信仰に近い神格化された存在になっているのです。

 この本でも書かれていますが、スナップを撮るにはレンジファインダーが最適、というのはその通りで、一眼レフのような大鑑巨砲のカメラを向けられたら被写体は委縮するでしょう。構えずとも撮れる(もちろんそのための腕はいる)、シャッター音も小さいライカは被写体と近距離で自然な姿を撮れるベストな撮影機材だと思います。またレンズの設計自由度も高く、個性的なレンズも数多く残っています。

 この本を読んで、久しぶりにフィルムカメラを持ち出したくなりました。フィルムカメラでは1ショットにかなり重み(現像とプリントでお金がかかるため)がありましたが、デジカメの今ではなにも考えずに無限にシャッターを切れます。いい時代になったのか、むなしい時代になったのか、そういう感傷にひたりました。おもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

近未来SF小説『エンタングルメント・マインド』シリーズの特設サイトです!

0コメント

  • 1000 / 1000