読書感想文 『一休・骸骨』 乃木(著)

 悪行三昧を繰り返す山賊の男が、あるとき自分の殺した女の骸をじっと眺める法師に出会った。一休禅師。男は一休との問答の末、山を下りる。しかし村人に捕らえられ、耳鼻を削がれてしまう。骸骨のごとき相貌となった男は一休に「二漏」と安名され、「何もすな」という行を与えられた。

 一休の教えを頑なに守ろうとする二漏。その教えはとてつもないものです。「何人も救うな。悉く見捨てよ

 善を成すなという。善悪は表裏一体。ならば善がなければ悪もないということではないか。

 命が路傍の石ほどの価値もなかった時代。二漏は諸国を乞食で行脚します。誰も救わず、ひたすら見棄てる。命を見棄てます

 河原に住み、同じく住む清目《きよめ》や三昧《やき》、非人と交わります。死が日常の中に暮らす彼らも二漏に教えを与えるのです。

 そしてついに自らが攫い売った娘と再会します。しかし「報いとは思うな」という教えに身もだえする様に、わたしのこころも震えました。

 悟りとは阿呆の居直りである。悟らんとすることは強欲である。

 悪をなさず善もなさず。世に仏なきことを知れ、前後に道はなし。

 室町時代の言葉や風俗などを綿密に考証してあるだろう文体により、読者はその時代にタイムスリップして骸骨法師「二漏」の人生を追体験し、共感し、ともに考えることになります。まさしく本で読むことのすばらしさを感じさせてくれるものです。これを映像化しても、空虚な絵空事にしかならないことは容易に想像できます。本であるからこそ感じるものがあるのです。

 すみません。感想がめちゃくちゃになるほど、ちょっと言葉が見つからないです。読後は混乱しながらも透徹したこころ持ちになりました。

 こんなすごい本が作者の創作によるものだとするならば、わたしごときでは足下に及ばない気がする。しかも無料なんですよ。信じられないです。

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