読書感想文 『合わせる男』 ながいしんか(著)

 二十八歳になった僕の周りでは、急に結婚というワードが身近になり始めて、僕も結婚について少し考え始めてみた。彼女ができたらどんな感じなんだろう? そよ風に髪がなびいてウフフとほほ笑んでくれる女の子が理想なんだけど……

 主人公の井川ヨシトは、自己主張が苦手でいつも人に合わせてしまいます。そんな彼の語りで綴る、コメディータッチの小さな幸せのお話です。

 彼は自分の性格をよく理解していて、もっと積極的にしたいと思いながら、なかなかそうもできません。それは優しいからと思います。争いごとを好まない性格がにじみ出て、人当たりがいい人だなと読んでて好感を持ちました。彼は、会議の前など緊張して体調が悪くなったり、季節ごとに疲れやすくなったりと、虚弱なんじゃないかと思ってしまうところもありますが、それも自分に正直だからなんでしょう。わたしなんかは、そういうことがあっても強がったり、自分自身に言い訳をして取り繕うところですが、彼は失敗も受け止めて前向きに進もうとします。マジメだと思います。

 とはいえこういった性格ではなかなか恋人ができないのもそうなのでしょう。しかしそんな彼にもついに春が訪れます。ゆっくりと愛を育んでいきます。わたし、読んでて応援していました。ガンバレッて。終盤は本当にこころ温まります。冬場に最適。

 小説やマンガ、映画では主人公が無双して活躍するストーリーが主流で、それを読むわたしたちも、そうあるべきだと思いがちですが、ふと立ち止まって自分を振り返ると、そんなことはできっこない普通の人間なんだと気づいてがっかりしたりします。この本は、普通の男の人の普通の恋愛を題材にしています。読んでいて、普通でいいんだ、と安心しました。とてもおもしろかったです。


 主人公は、ガサツで粗暴でヒステリーでたまにやさしい母と妹とみはるさんを見て育ち、楚々とした女性に憧れがあるみたいですが、残念ながら、世の女性のほとんどはみはるさんみたいな人たちです(笑)。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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