読書感想文 『新解釈、山南の切腹』 雨川 海(著)

 新選組の山南敬助は、岩城升屋で不逞浪士と切り合いし、これを撃退した。しかしその際に土方歳三をかばったために、右腕を負傷してしまった。その後、山南は剣を満足に振れぬようになってしまう。


 新選組の山南敬助は、総長という幹部でありながら新選組を脱走し、潔く切腹して生涯を終えました。脱走した理由は謎のままです。その謎についての新解釈が本作(短編)になります。

 わたし個人的には、新選組隊士のイメージが肩で風切る無頼者なのに対して、その一員であるはずの山南のイメージは正義の剣士でした。記憶を辿ると、そのイメージの源泉は、NHK大河ドラマ『新選組!』で堺雅人が演じた印象が非常に強かったからだと思います。優し気で紳士的、それでいて強いという、新選組の良心みたいな演じ方でしたね。本作もそのイメージを踏襲しているので、自分的には違和感なく読むことができました。

 剣の達人で誰からも慕われ、近藤勇や土方歳三などの幹部の信頼も厚い山南が、脱走したら切腹とわかっていてもなお脱走したということは、切腹する理由を求めていたということが事実なんでしょう。なぜそうまでして切腹を求めたのか、その新解釈は本作を読んでいただければと思います。

 ウェットに偏らない淡々とした筆致がかえってもの悲しさを誘います。おもしろかったです。

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