読書感想文 『Pの刺激』 杜 昌彦(著)
街の至る所に小説の断片が印刷された紙片PCzがばらまかれた。それは最後の無頼派作家と呼ばれた羅門生之助が死とともに持ち去った遺稿『PUNK』と思われた。PCzは人々の意識を飲み込みながら肥大化し増殖し始める。
物語は茶川賞を最年少で受賞した少女の行方を捜してほしいという依頼から始まります。前半は少女の捜索や、主人公の生い立ち、PCzの謎、羅門生之助の異常ぶりでストーリーを組み立て、時折くすりとさせる描写(「筋肉質で股間が盛り上がっている」とか)を織り交ぜて読者の興味を鷲掴みにします。しかし中盤からいきなり夢と現実の境目を彷徨うファンタジー要素が入ってきて、そのまま終盤にかけて物語が急速に破綻していきます。作者が前半に組み立てた筋書や登場人物を作者自らが次々と破壊し、いつの間にか別次元の物語に変容していました。わたしは、作者の高揚感と絶望感を同時に感じながら読みました。まるで作者自身がPに汚染されているかのようでした。
比喩と暗喩が入り乱れる文体で、しかも基本ダークな言葉選びは、わたしにとっては読みやすいものではありませんでした。しかし鼻から侵入した芋虫が脳内を這い回るような読み味はこの作者の突き抜けた個性と思います。商業本ではめったにお目に掛かれないセルフパブリッシングならではの本ではないでしょうか。同作者の『悪魔とドライヴ』同様、読み終えた昨夜は悪酔いした夜に似てうなされました。
一気読み注意、かなり毒あります。
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