読書感想文 『戦時の風』 赤石絋二(著)

 昭和16年の冬、大学生の真田は、生活費を浮かせるべく安家賃の『もみじ荘』に引っ越してきた。その初日、真田が庭に出ている間に、真田の部屋で長谷部という男が刃物で殺された。もみじ荘の住人は、引っ越してきた真田、物理学校助手の漆原、美大を中退した横地、カフェの女給の広瀬の四人。真田以外の住人はいずれも、胸に一物を抱えていそうな人物である。誰が長谷部を殺したのか? その動機は?


 戦中期を舞台にしたフーダニット&ホワイダニットの短編ミステリです。会話文や、地の文が若干固めですが、それがかえって大正末期から昭和初期の雰囲気をよく出していると思います。

 戦前、戦中期は、市民が抑圧されたとされる時代で、本作にも国家に反発する反体制派が登場します。さらには、体制側以外の登場人物ほぼ全員が不満分子気味に描かれています。こういう時代を書く際に難しいのは、作者は現代の知識を持ってしまっているということです。すなわち作者は、答えを知ったうえで当時の世相や人々を描かなければならないわけです。これは難しいことですよね。当時の普通の国民が、世界的な潮流やメディアの扇動もあるなかで、果たして国家に疑問を持っていたか、というのは良く吟味する必要があると思います。まあ小説なので、それほど厳密ではなくてもいいのかもしれませんが、自分も時代を見誤らないようにしたいなと思いました。

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