読書感想文 『藤村の呪縛』 朝香晴斗(著)

 隅田川に身元不明の水死体が上がった。月島署の女性刑事 山路と、捜査一課のベテラン刑事 鳥飼がコンビとなって捜査に当たる。事件の背後に浮かび上がる技能実習制度の暗部と、政治家の影。鳥飼と山路は、洞察力と語学力で事件の真相を暴いていく。


 本作は、捜査の舞台裏や使われる隠語が豊富にちりばめられており、実際の捜査活動はこうやっているんだろうなと想像を掻き立てるリアリティのある警察小説でした。作者は、警察のことをよくご存じなのだろうなと感心しました。

 全般に、ど派手なアクションや、奇抜なトリックなどはありませんが、聞き込みを中心とした地道な捜査で犯人を追い詰めていくところや、技能実習制度などの社会問題を扱っているところが、真に迫った雰囲気を作っていて、テレビドラマシリーズ『相棒』のようなお話が好きな人にはたまらないと思います。

 一方、物語の展開はゆっくり目で、かつ、捜査パートの合間に、登場人物たちの日常や背景、心情が綴られるため、前半は捜査がなかなか進まない感があり、最近のタイパを気にする若者には敬遠されるタイプの小説かもしれません。

 他方、小説を読みなれた人にとっては、こってり風味のじっくり長く楽しめる小説ともいえ、自分は、後半一気読みになりましたが、前半は一週間くらいかけてゆっくり読みました。おもしろかったです。

 終盤、山路は得意の語学を駆使して真相に迫っていきます。最終的に、シャーロックホームズのエピソードのひとつ『犯人は二人』を想起させるラストになるわけですが、本作ではホームズの役割を権力側の山路刑事がやってしまうのが、個人的には読後のしこりとなって残りました。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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