読書感想文 『ブレイン・ハッカー』 小村一三(著)
ライン作業員として働いている三浦伸也は、仕事中にもかかわらず幻覚を見るようになっていた。そのせいでミスも多く、会社からは厄介者扱いされていた。同じ会社の事務員、岡田由美も同じような幻覚を経験しており、二人はその幻覚の原因を探り始める。
序盤、中盤、後半とストーリーの雰囲気が変わる小説でした。序盤は、現実世界の理不尽に疲弊した青年がスピリチュアルに逃避して、その精神世界と向き合うことで立ち直っていく、みたいなストーリーラインだと思っていましたが、中盤からは、鬼の子孫というホームレスの青年の家系をたどっていくと酒呑童子にたどり着いた、みたいな歴史ミステリーの様相を呈してきたのでワクワクしていたら、後半では超能力バトルとなったので、あれれ、と面食らいました。個人的には、中盤の歴史ミステリーの雰囲気が好きでしたので、後半もその路線で、例えば、何かしらの現代社会の病巣を酒呑童子にまつわる自然の力によって解決していく、みたいな社会派小説で終わったら、個人的にはもっと好きだったかも、と思いました。すみません。あくまでも個人的な嗜好です。
あと良いなと思ったのは、超能力のところもできるだけ科学的に説明しようとしているところです。ファンタジーなら何の説明もなく超能力で人を吹っ飛ばせますが、そうはせず、その作用に科学的(細胞へ作用する)な観点を入れているのは良かったです。SF的。
本作での幻覚や体外離脱は、夢見の現象として説明できるかもしれません。夢の中で夢を自覚するのは明晰夢ですし、夢を他人と共有したとする共有夢も実際に事例として報告されています(その原理や理屈は不明ですが)。夢は最も身近なオカルト現象といえるのかもしれませんね。ちなみに、明晰夢について詳しくは「思想物理学概論」に書きましたので、ご興味のある方はぜひ!(宣伝)
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