読書感想文 『レイライン: 千三百年間の謎 失われた秘剣』 榊正志(著)


 殺された高名な考古学者 桜井康造の娘 哲子は中国の老研究者のもとに招かれ、北朝鮮内で衝撃的な内容が書かれた石碑が発掘されたことを知る。石碑には、白村江の戦い(663年)で敗れた日本の戦後賠償について記されていた。現代中国は日本に戦後賠償を迫るため、証拠が刻まれたとされる天叢雲剣の行方を追い始める。康造の遺した手帳に剣の隠し場所が書かれていることを知った中国は、持ち主の哲子と彼女を守る警察官 進藤に襲い掛かる!


 『ダ・ヴィンチ・コード』(ダン・ブラウン著)を彷彿とさせる考古学ミステリの長編です。発見された石碑が端緒となり、戦時中の日本と中国共産党が結んだ密約を根拠に、中国と北朝鮮が日本に白村江の戦いの戦後賠償(領土の割譲)を迫ります。小説の中とはいえ領土問題というセンシティブな内容で、しかも日本の存亡にも関わるので、もう気を揉みながら読みました。他人事ではないって、こういうことなんですね。

 序盤は国境をまたいで繰り広げられるハードアクションでハラハラドキドキさせて、中盤からは日本と中国の命を賭けた天叢雲剣の探索競争になります。キーワードはレイラインです。寺院や歴史的遺物などが地図上で意味を持つ並びになる仮説をレイラインと呼びますが、日本におけるレイラインを日本書紀や当時の天皇、人々の心情をヒントに意味付けして天叢雲剣の隠し場所を特定していく過程は知的好奇心を大いに刺激してくれました。作者は古代について相当博識だなと感じ入りました。

 レイラインは考古学では主流の考え方ではないのですが、わたしは肯定的に捉えています。大地に直線を引くように要所に寺社などを建てる、などは科学技術が発達した現代ではごく簡単なことでしょう。そんな現代から徒手空拳の古代を見たときに、現代と同じことができるはずがないから偶然だ、というように考えることは現代人の傲慢ではないかとわたしは思うのです。科学技術はなくても、古代人にも知恵と時間と人手は等しくあるわけです。そもそも人間の知能は古代から現代で変わっていないのですから。

 読んで知的欲求が満たされた気がします。おもしろかったです。


 文章は少しぎこちなさが残っていて、わたしの読むリズムと合わなくて、なかなか読み進められなかったです。あと後半で若干スピリチュアル系の現象によって謎解きが進むところがありました。わたし個人的な好みですが、最後まで論理的に謎解きしてほしかったなと思いました。

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