読書感想文 『ヂメンシノ事件』 二口 直土(著)

 満水ハウスのマンション事業部に海猫館売却という超大型案件が持ち込まれる。対抗はライバル・ヤマトハウス工業。買取契約にこぎつけるためには二週間以内に会社判断が必要だった。担当本部長の真中は、若干の違和感を感じつつも稟議に奔走する。


 積〇ハウスが実際に騙された巨額詐欺事件とその後に起こった権力闘争をベースにした本格経済小説です。会社組織では従業員はミスをすることを前提にしていますので、人的エラーをミニマム化するマネジメントがなされます。今回の事件では稟議という決済システムがそれに当たり、多くの決裁者の目を通ることで詐欺や不正が入り込まないようになっています。しかしこの本の満水ハウスでは、稟議をきちんと回しているにも関わらず、見事に騙されます。どうやって地面師が満水ハウスに詐欺を仕掛けたのか? それはぜひ読んで考えてください。

 前半から中盤にかけては満水ハウスがいかにして地面師に騙されていくのかを具体的に書き、後半は詐欺に引っ掛かった原因をガバナンスの問題とする会長と社長の権力闘争に移っていきます。取締役会での対決の場面は、読んでいて緊迫感がありました。

 情景描写が抑制された文体で、積〇ハウスで起こった事実をベースにしているためもあって、まるでノンフィクションを読んでいるように感じました。物語の展開もスリリングでテンポも早いため、ゾクゾクとしながら読みました。たいへんおもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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