読書感想文 『うきよの月~もしくは清少納言と紫式部がメル友だったら』 散歩(著)

 ときは平安の世。方違え(目的地が忌方向だったとき知人の家に泊まるなどでやり過ごす風習のこと)で偶然知り合った梛《なぎ》と香は、永い文《ふみ》友だちとなった。のちに梛は清少納言、香は紫式部と呼ばれるようになる。


 清少納言と紫式部がメル友ならぬ文《ふみ》友だったら、という設定をベースに書かれた平安歴史物語です。平安時代が舞台ですが、現代的な言葉遣いで語られますので、読みにくいということは全くありません。ライトな読み味で気軽に読める重厚な歴史小説でした。当時の女性たちの興味、心情、風俗が良く描かれていますので、考証はしっかりされていると感じました。今も昔も姦《かしま》しい女性は変わらないのですね。あーあるあると共感することも多く、楽しく読みました。

 ストーリーは、香の書く『源氏物語』を軸に進みます。香から梛への文に添えられる形で物語が届けられ、そこから女房たち(さらに中宮まで)に伝搬していく様は、現代のツイッターでバズる様に被るなあと思いました。さらに、篇ごとに女房たちの感想が香に届られ、さらに『物語』が洗練・変容していくところなど、「小説家になろう」システムを思い起こさせます。女房たちは、集まっては物語の登場人物についてあれこれと気を揉んだり、行く末について熱く議論を交わしたりします。今でいうテレビドラマやアニメのように当時は物語が娯楽の中心だったのでしょうね。

『源氏物語』といえば世界に冠たる長編小説ではありますが、わたしのこれまでの印象は「ロリコンでマザコンで変態の光源氏の昼ドラ的色恋沙汰物語」で、正直興味もなかったのですが、この本を読んで変わりました。当時の風流な恋愛模様に権力闘争や栄枯盛衰も入った平安時代の社会派小説なんですね。『源氏物語』、読んでみようと思いました。

 梛はキャリアウーマン的な才気ある女性、香は天才的でありながらコンプレックスを抱えた女性、随筆家と小説家という性格の違う二人の対比によって、創作とは何か、というテーマを考えさせてくれます。創作家は本書を読んでみると何か感じることがあるかもしれません。

 現実では紫式部は清少納言をひどくこき下ろしています。この本でもその場面は出てきますが、その結末の付け方はステキだなと思いました。

 たいへんおもしろかったです。

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