読書感想文 『プロパガンダ・ゲーム(16年版)』 根本聡一郎(著)
大手広告代理店「電央堂」の入社選考試験は、プロパガンダをやり合うゲームだった! 8人の学生たちは政府側とレジスタンス側に分かれ、隣国との戦争の是非を問う投票に向けて宣伝戦を戦うことになる。
プロパガンダとは主に政治的な意図を持った宣伝行為のことで、わたしたちが普段目にする広告などにも気づかれないように潜んでいます。この本では、架空の戦争の是非に対する宣伝ゲームでプロパガンダのエッセンスをわかりやすく描いています。
序盤の自己紹介やルール説明は少し事務的だったりテンポが遅かったりで興味を持ち続けられない方もいるかもしれません。でも一旦ゲームが始まってしまうと、目まぐるしく展開する心理戦、宣伝戦にぐいっと引き込まれると思います。
ゲームでは学生たちは情報宣材を購入して、その情報を効果的に扇動に使うということがポイントになっています。ゲーム時間が1時間しかないからか、彼らは買った情報をそのまま使います。裏取りも検証もせず、与えられた情報を信じて使うのです。作者は明示していませんが、わたしはこれこそがプロパガンダの本質ではないかと思いました。プロパガンダの危険性とは、受け取る側は情報の真偽はわからない、そして発信する側も真偽は問わない、というところにあるのではないかと。それを正すのがジャーナリズムであるはずなのですが、この世に公平中立なメディアがどれだけあるか……、身の毛がよだつ気がしますね。結局自分を信じるしかないか、と思います。
ゲーム終了後も、現実世界でのプロパガンダ・ゲームにつながり、陰謀論のような展開になっていきます。プロパガンダ・ゲームに参加した若者たちの決起を、「若いな」と一笑するわたしは老害になったんだなと感じました(笑)。
さて、文章は人称や視点が若干不安定ですが、それは地の文だけで、会話は臨場感があってテンポ良く読めました。おもしろかったです。
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