読書感想文 『夜明け』 辻井豊(著)
核戦争で荒廃した地球。復興政府統制局長の水神令子が乗ったヘリが撃墜された。ただ一人生き残った令子は、ドーム都市外のコロニーで生活する集団に助けられる。令子を救った老博士は衝撃の言葉を放つ。ここは地球ではない……?
ブレードランナー的世界観のSF短編です。好みのタイプです。スケールの大きさから考えて中長編でもおかしくないと思いますが、この本は極端に肉を削ぎ落した地の文と感情表現すら必要最小限にした無駄のない会話で構成されていて、まるで骨格標本のような短編になっています。おもしろい試みだなあと思いました(もしかして狙っていないのかも)。
復興政府の人々は人工知性ジニーを下に見て使っていると考えていますが、その実、人類はジニーがいなければ生きていけない現実があり、復興政府はジニーの静かな支配下に置かれています。その関係性が軸になってストーリーが進みます。人類の生存のためにあらゆる手を尽くしたジニーと、それを良しとしない勢力の戦いが始まりますが、このへんは『トロッコ問題』を思い出しながら読みました。多数を救うためにもう一方を犠牲にすることは許されるのか? 単純なAIなら設定どおりに行動して悩むこともないんでしょうが、人間はそう単純ではないので耐えられないんでしょうね。それは他者に思いを馳せることができる人間の特徴(共感機能)で、ならばAIにも共感機能を持たせることができれば人間と同じように悩むことができるのかなあ、などと考えながら読みました。
短編なので一気に読んでしまいました。おもしろかったです。
0コメント