読書感想文 『ピカソの背中』 月詩夏人(著)
画家を目指す書店アルバイトの宮本清志郎は、終電を待つ間、駅前の大型ビジョンを見るのが日課だった。番組では著名人が名言や人生訓を垂れ流し、それを「くだらねえ」とつぶやくのも彼の日常だった。近くの路上ではストリートミュージシャンの女性が観客もいないのにギターをかき鳴らしているのもいつものことだった。ある夜、彼はその女性に絡まれる。
夢をあきらめかけているストリートミュージシャン北川春香と画家志望の青年 宮本清志郎のボーイミーツガールです。二人のいかにもな出会いから始まり、彼女が清志郎のアパートに転がり込んでくるという、世の男からしたらすごく憧れるシチュエーション(笑)が彼に降りかかります。それなのに、ああそれなのに、据え善すら拒否する草食系の清志郎君。そして肉食系と思わせながらしとやかな一面も見せる春香嬢。同棲しながらくっつかないのも今どきの若者の関係性を描いているのでしょうか。そういう意味では安心して読むことができました。
さて、このストーリーでは二人ともとくに創作に対してもがくということもなくチャンスをつかんでいくので、自覚はないけど才能はあるという設定なのでしょうね。そこがわたしのようないつももがいている凡人との違いだなあと思いました(笑)。清志郎と春香の二人は才能があるのに自分はダメだと夢をあきらめかけているのですが、いろいろなきっかけや人々の後押しで認められるようになっていきます。人々の関係性によって才能は見出されていくということなのかなと考えながら読みました。才能などは結局のところ絶対評価ではないので、いくらスゴイものが描けようが一般人にはわからないことも往々にしてあるし、たとえ数人にわかってもらえてもそれは広がっていかないという哀しさがありますよね。逆に、有名人などのインフルエンサーたった一人に気に入られた凡作が一気にバズるということもあるわけで、この世は理不尽な運で成り立っているんだよなといつも思います。こんな世知辛い世の中で夢追い人ができることはあきらめないこと。これが作中にある『ピカソの七つの助言』で作者が言いたかったことなのでしょう。
創作に苦しむという身につまされるようなシーンはなく、彼と彼女の爽やかな同棲生活がメインの青春小説でした。おもしろかったです。
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