読書感想文 『卓上の宇宙船』 岡部 辰彦(著)
ルポライター白木ヒロキ(通称ロッキー)は、三年ぶりに息子ヒカル(小学一年生)と会うことになった。会いたくても会えなかった息子との再会。短いステイにやってきた息子のランドセルには、ありえないDVDが入っていた。疑問を持ったロッキーは密かに調べるうちに、黒い事件に巻き込まれていく。
普通の世間になじめない人っていますよね。ロッキーはまさにそのはみ出し者で、社会に対しても他人に対しても関心が薄くて妻も去って子どもとも会えなくなってしまった、というところから物語がスタートします。ロッキーは作家志望という設定だけあって冒頭から濃ゆい心情吐露が延々続きます。創作している身としては共感できるところも多くありましたが、気が滅入るかもしれません(笑)。純文学なぞを書く人は、ロッキーのように自らを追い込んでしまうのでしょうか。自分には無理な世界だなあと思いました。結局何も書けなくなったロッキーは、仲間の助けで三流ルポライターでなんとか生計を立てています。理解してくれる人がいるというのは大切ですね。
中盤からようやくサスペンス的な事件がほのめかされて物語のスピードが上がっていきます。ヒカルも巻き込んだ事件の謎解きに、ヒカルとの邂逅によって鬱屈したロッキーの心情も変化していくというストーリーが並行して一気に終盤まで読ませます。
ロッキーの書いた絵本の内容が作中作として挿入されていて、その内容が事件解決のキーポイントという凝った構成です。作家志望の若者が夢破れて落ちぶれた先でみつけた希望を予感させる物語でした。おもしろかったです。
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