読書感想文 『HOTEL NEW ALABAMA』 フクチカズアキ(著)
博覧会の宿泊施設として建設されたホテルニューアラバマは、周辺が寂れた今でも営業していた。そのホテルには奇妙な噂があった。宿泊した客が消滅するという。今日も消滅を求めて客が訪れる。
ホラーなのかミステリーなのか、はたまた精神異常を描いたオカルトなのか、ジャンル分けが難しい小説です。小説自体は、ホテルニューアラバマの噂を聞きつけてやってきた人たちの一人称による群像劇になります。
登場人物にはそれぞれそのホテルにいる意味と関係性があるのですが、彼ら自身の記憶があいまいになっていく様子を丁寧に描くことで、存在までも『消滅』するという設定のリアリティを出しています。記憶が消えてく様子と、精神が破綻していく過程とが重なり、異常者の心理を怖いくらいリアルに感じました。
章が進むにつれ他の登場人物の記憶の断片が集まってきて彼らの関係性が明らかになっていくという、記憶を遡る映画『メメント』のような凝った構成です。小説技巧的に難しいことにチャレンジしているなと感心しました。
トリックがあるわけではありませんが、なぜそこに宿泊客がいて、なぜそんな行動をとるのかというところがミステリですね。おもしろかったです。
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