読書感想文 『炎上プロデュース少女 宝田らめの』 解場繭砥(著)

 引きこもりの僕は、世を恨み、無気力に暮らしていた。ある日突然母が死んだ。独りぼっちになってしまった僕には母の借金だけが残った。その借金を取り立てに来たのは怖いお兄さん、ではなく、ほんわかした美少女だった。


 可愛らしい少女の表紙に、軽い読み味の小説なのですが、内容はかなりダークで驚きました。まず主人公中田慎一のダメ人間っぷりがすごいです(笑)。母親が死んでも全く悲しむこともありません。普通なら、表面上は強がってもこころの中では寂しく思うはずなのですが、彼はこころの底からなんとも思ってません。親が死んだのに明日何を食べようかという心配をしています。それまで母親の脛を齧って生きていた彼は、母が死んで稼ぎもないのに働く気は全くなく、逆にそういう境遇になってしまったことに対して親と社会を恨む始末です。冒頭はそんな話なので、彼はこれからどうやって生きていくのかなあと、小説の中の主人公を心配してしまいました(笑)。そこに現れたのが借金取りの美少女。話し方はイマドキのカワイ子ちゃん風ですが、案外しっかりした内容を話すので一安心。一方の主人公は、せっかくの美少女を前にしてもほとんど興味を示しません。さすが引きこもり。

 彼女の借金回収メソッドは、ネットで炎上してアクセス数を稼ぎ広告料を得るというものです。彼のマイナスオーラを最大限に引き出すことで炎上につなげていくのですが、そのネタは親の死を使ったかなりエグイ内容で、わたしがネットで観たら引くな、と思いました。でもそのくらい突き抜けないと炎上しないのかもしれませんね。リアル世界のストレスをヴァーチャルなネット世界でどう晴らそうかと日々ネタを探している住人に向けて、叩きやすい炎上商材(今回は彼)を提供するビジネス……あり得る。あり得るんですが、なんという世の中になってしまったのか、と少し悲しくなりました。とはいえ最後は少し前向きになれる終わり方でしたので救われた気がします。

 昨今の殺伐としたネット社会をうまく捉えてエンタメにした小説でした。おもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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