読書感想文 『縄文スタイル』 波野發作(著)
小さなデザイン事務所がかつて書いたキャッチコピー『縄文スタイル』。書いた本人たちも知らぬ間に縄文文化の一大旋風を巻き起こしていた。書いた一人であるナカヨシは目に飛び込んでくる『縄文スタイル』にめまいを起こし、書いたもう一人のイサカイはブームの最中に消息を絶った。『縄文スタイル』ブームの裏側で何が起こっているのか?
『縄文スタイル』というシンプル&キャッチ―なタイトルに惹かれて手に取りました。あまり縄文時代に詳しくないもので、読みながら『洞ケ瀬スレート』をネット検索してしまいました。縄文文化の具体的でリアルな記述にだまされました(笑)。ミラクルフット……ゴッドハンドをモデルにしているんですね。
わたしのこの時代のイメージは、弥生時代は明るく、縄文時代は暗いというものでしたが、これも過去に学んだ教科書のイメージ絵のせいしょう。『縄文スタイル』のような教科書ならもっと興味をもてたのに……ほかにもこの本で描かれる『縄文スタイル』、縄文人の生き方や、縄文の文化、さらに縄文と関係の無いモノまで含めて現実にムーブメントを起こせそうな新味がありました。作者の波野さんは様々な企画などもやられている方とのこと。さすがにプロは違うなあと思いました。広告業界の内幕を知るという意味でもおもしろいです。
冒頭、主人公イサカイとヒロインナカヨシの二人の掛け合いから始まります。このシーンがライトでスピード感があって、それ以降の物語に読者を惹き込んでいく”引き”になっています。最近の小説はこういうつくりがベーシックなのでしょうが、わたしのように古いタイプの読者には多少置いてけぼり感があるかもしれません。ただ、それ以降は落ち着いた読み味になりますので、そういう雰囲気のほうが好きな読者(わたし)でも楽しく読めるようになっていました。
個人的には、重厚な入りでそのまま通したらまた違ったストーリーでおもしろかったかもと思いました。その場合は、権力闘争や汚職に巻き込まれた亀ヶ岡教授が殺されて、イサカイが探偵となって黒幕と陰謀をあぶり出すみたいな社会派ミステリになるのかな(笑)。
いろいろ想像しました。おもしろかったです。
0コメント