読書感想文 『サイトカインストーム アスクレピオス』 浅谷 祐介(著)

 アラサー社員 甲斐美鈴はある病気の宣告を受けた。余命いくばくもない彼女はこれが最後と独りで海外旅行に出かけた。しかし帰国した彼女は奇跡的に回復していた。


 近年の人工知能の進歩は目覚ましく、医師に代わって医療診断をするAIも現実のものとなりつつあります。過去の症例を深層学習《ディープラーニング》させた医療AIはすでに人間の専門医の診断精度を超え始めていて、近い将来、医師は医療AIの診断で治療方針を立てることになると言われています。この本はそのさらに先の未来を見据えていて、患者の症状がどう進展していくかのシミュレーションまでできる医療AI『アスクレピオス』が登場します。普通のSF小説ではこの医療AIを中心に据えてストーリーを展開していくところですが、この小説では医療AIはあくまでも脇役で、病に蝕まれていく患者と治そうと奔走する医師たちの人間ドラマが物語の中心になっています。無機質なSF小説ではなく血の通ったストーリーになっていて読み心地が良かったです。

 物語はサイトカインストーム(免疫系の暴走)をいかにコントロールするかというもので、現実にはない症例を扱っています。もしかしたら専門家が読むとストーリー展開に難を感じるかもしれません。最後、医学的にははっきり終わらないのもそのせいなのでしょう。ただ一般人のわたしはそういったことは特に感じずハラハラしながら一気に読んでしまいました。

 この本が第二弾ということです。わたしはそれを知らずに読みましたが、特に問題なく楽しめました。おもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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