読書感想文 『屋根裏文筆家』 小林 アヲイ(著)
害獣イボロを駆除する仕事で忙しく飛び回るタダヲと、日がな一日自宅でぼんやりしている自称小説家の父との珍妙な交流。
イボロとはこの本にのみ生息する小動物です。ねずみくらいの大きさでゆるキャラのような風体と描写されています。一方その生態はゆるキャラ風の見た目に似合わない特異なもので、オスがメスと子どもをDVするという設定になっています。この本を読んで、空想上の生き物を文章で表現するという作者の苦労が偲ばれます。ドラゴンのように記号化された生物であれば『ドラゴン』と書くだけで済むのでしょうが、イボロは誰も見たことのない作者の想像のなかの生き物なのでそう簡単には表現できません。百聞は一見に如かずというように、イラストなら一発で理解させられるものを、百回も聞かせなければ読者の空想に登場させられないのですよね。文章からイボロを想像しなければついていけなかったのに加えて、前半は一文の中に文芸寄りの凝った表現が多く現れて正直目が滑りました。伝えることの難しさを読者の側から感じました(笑)。後半になるつれ、イボロの想像の形が定まってきて、文章もシンプルに落ち着いて読みやすくなりました。
ストーリーはイボロの大量発生と自称小説家の父を対比させて人生の価値観の違いをあぶり出している、のかな。自分の読解力では理解及ばずでした。自称小説家の父親の言葉がいちいち胸に刺さるのは、自分も自称小説家だからなのでしょうか(笑)。いつまでも完成しない傑作を夢想して朽ちていく人生もありなのかもしれないと思いました。
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