読書感想文 『作らなかった少女』 北山遠後(著)

 10年前に一回きり会っただけの少女と今日再会する。10年前、彼女はなぜ雪だるまを一緒に作らなかったのか、そのことがずっとこころに引っ掛かっていた。


 遠い親戚の家に連れていかれた彬生《あきお》くん(10歳)は、同じ年の美葉という引きこもり少女と出会います。彬生くんは美葉ちゃんと一緒に雪だるまを作ろうとしますが、彼女は「かわいそうだから」と手を出しませんでした。なぜ彬生くんは連れていかれたのか、なぜ美葉ちゃんは引きこもりなのか、なぜ雪だるまがかわいそうなのか、という前半の疑問をうまく後半に引っ張っていってくれます。

 10年間も想像の中で育んできた想いが再会することで壊れるのではないか、と恐れる彬生の揺れ動くこころが丁寧につづられていて、ああ純粋だなあとわたしも若いころを思い出しました。彬生と近づくことにためらい、戸惑う美葉の気持ちも痛いくらい伝わってきました。お互いが双方の気持ちを推し量りながら徐々に距離を縮めていくところなんかは、なんだかむず痒い気持ちになりました。わたしのこころは相当に老いているのでしょうね(笑)。

 現実の世界ではなかなかありえないくらい純粋な気持ちのまま物語が終わりますので、読後感はとても良かったです。静かで雪の中に消えてしまいそうなラブストーリーでした。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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