読書感想文 『水底の星々』 冬 佳彰(著)

 商家に押し入って強盗したあげく火をつける夜盗集団の噂があった。岡っ引きの辰蔵は手下の幸次を使って調べを始める。


 舞台は江戸時代の底辺社会です。誰もが貧しく、死と隣り合わせの生活をしています。本当にすぐに死んでしまう時代で、生きるために小さな犯罪も頻繁に起こります。そんな社会で幸次のような下っ引き(岡っ引きの手下)の仕事は、犯罪調査で町を嗅ぎまわること。調査で裏の世界につてが必要なため、岡っ引きや下っ引きは元犯罪者や筋者が担うことも多かったそうです。このように下っ引きは元々素行が良くない爪弾き者なので、町の衆には犬と疎まれていました。幸次も同じで、後ろ指を指される生活を送っています。下っ引きの仕事に染まり堅気にはなかなか戻れない境遇に悩むところは現代に通じる葛藤だなと思いました。幸いに、幸次は町の衆に疎まれながらもその人情に救われ、考えを変えていきます。生きるために必死の努力が必要な社会でも忍耐強く希望を持って生きようという作者の思いが伝わってくるようでした。

 このような人情物がベースストーリーですが、サイドストーリーである夜盗「かすみ」の追跡がサスペンスの味付けになってグイグイと引き込まれました。言葉遣いや名称なども時代小説の文法にしっかり沿っていて、江戸時代の町人社会にすっと入ることができました。安易なお涙頂戴的ストーリー展開に陥ることなく、現実を冷静に自然に丁寧に書き綴る、わたしの好きなタイプの小説でした。おもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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