読書感想文 『月が見ていた』 浅谷 祐介(著)

 現在の光から過去の情報を取り出すという『光の時間分割理論』。その理論が実用化され、人々は思うがまま過去の映像内に没頭できるようになった。正確な過去を知ることで世界は変容していく。SF短編。


 光には通り過ぎてきた過去の情報が保存されており、時間ごとにその情報を抜き出すことができれば、その場所の過去映像を見ることができる、というアイデアがおもしろいとまず思いました。地球上では、光はあっと言う間に拡散してどこかに行ってしまいますので、見たい過去の情報を持った光を探し出すのが大変だろうなと考えながら読み進めていくと、最後ひっくり返すときにタネ明かししてくれました。

 光が過去の情報を持っているという突飛なアイデアには及びませんが、実はわたしも似たようなことを夢想していまして、目に飛び込んでくる光の中には空気中で乱反射を繰り返して飛んできた光もあるはずで、その光だけを抜き出すことができれば通常視線が通らない建物の裏などを見られるのではないか、というアイデアです。どこかで小説にしたいなと思っておりましたが、このブログでついバラしてしまいました(笑)。光は物理学における最重要な概念ですのでSF的ロマンが広がりますね。

 本作は短編に収めるためなのか、終始説明的文章で進み、作中イベントもあっさり終わらせており、なんとなく味気ないなと感じる読者がいるかもしれません。短編ではもったいない題材で、長編化できるのではないかと思いました。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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