読書感想文 『月の娘にスープを送る』 高山 環(著)

 悦子は独りになってしまった。娘の琴は全寮制の中学に進学し、夫の聡は黙って家を出て行った。ある夜、独りきりの悦子は、突如現れたダイオウグソクムシから、娘の琴が犯罪を引き起こす、と聞き動揺する。そして悦子と聡が開発に関わったスマートスピーカー『レベッカ』が何者かに乗っ取られるという事件が発生する。


 主人公の悦子は、IT技術で世界を救うんだという崇高な理念を持って仕事に打ち込むワーキングパーソンです。反面、仕事優先で家庭のことは省みないという、現実にいたら近寄りがたいなという性格の女性でもあります。若干キャリア志向も見えますね。今どきな感じです(笑)。そんな彼女も、家族がバラバラになってしまって自分の生き方に自問自答し始めます。この家族の再生物語もストーリーを引っ張る重要なテーマになっています。

 犯人は、日本中に普及したスマートスピーカー『レベッカ』を乗っ取って、ねこねこクイズを始めます。ダイオウグソクムシ、ねこねこクイズ、浮気の真相など、全体に緩めの雰囲気が漂っていて安心して読めました。ただ、ねこねこクイズのひとつ「日本のてっぺん」は、これじゃ解けないんじゃないか、と読んでいて不安になりました(笑)。

 クライマックスは、若干唐突感はありますが、主人公が意外な真相に迫るというミステリの文法に沿った流れとなります。一読者のわたしとしては、ダイオウグソクムシの存在がかく乱要因になって、かつ前半に浮気の噂を話すくらいしか思わせぶりなところがないので、ええぇそんなぁ、となりました(笑)。

 ラストはSF(サイエンスファンタジーのほう)で感動的に締めくくられますが、個人的には、ダイオウグソクムシの謎もリアルに解くストーリーのほうが好みかなと。あくまで個人的な感想にはなりますが……。

 文章は、悦子の感情が地の文に頻繁に差し込まれるタイプの三人称です。ところどころ地の文で「私」を使ってしまっているところもあり、一人称と三人称が混ざってしまったような違和感が残りました。結局最後まで悦子視点は変わりませんでしたので、いっそのこと悦子の一人称にしたほうがスッキリしたのではないかと思います。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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