読書感想文 『僕はおまえが、すきゾ!』 逢坂 純(著)

 武田宏人は松下優作が好きだ。好きといっても、親友という意味で。その優作に彼女(古賀朝子)ができた。宏人にもガールフレンド(油科)ができるが、恋がどういうものかわからず、感情を高ぶらせ皆を傷つけてしまう。


 宏人の唯一の親友である優作に彼女(古賀)ができ、古賀からの紹介で宏人にもガールフレンド(油科)ができるのですが、宏人は古賀に親友が取られるのではないか、そして宏人自身が油科にからめとられるのではないか、と怯え、攻撃的になり、それぞれを傷つけあってしまう、というまさに若葉の匂いがする青春ストーリーです。

 主人公の武田宏人は統合失調症で、その病気による感情の起伏や、コンプレックスなどによって相手も自分も傷つけていきます。そういう状況が、誇張されることなく、真に迫って伝わってきて、統合失調症の人の見えている世界はそうなのかなと実感させてくれました。作者が統合失調症ということですので、確かにそこにあるリアルを書いたのだと思います。

 さて、わたしがこの小説で注目した点は、キャラクターでもストーリーでもなく、その文章自体でした。誤字脱字や人物の書き間違いがあったり、宏人の一人称と三人称がころころ変わってしまうなど小説作法も無視していたり、文章レイアウトも途中崩れているところがいくつもあったりと、おそらくほとんど見直しされることなく出版されたのかな、と思います。いつもなら読むのをやめてしまうレベルなのですが、文章から溢れ出るエネルギーに当てられて一気に読んでしまいました。なんというか、文章から鮮烈な色を感じたんですね。きっと作者が原稿用紙にぶつけた文章そのままなんだろうと思います。だから原色のまま読者であるわたしに届いたのではないかと。

 こういう力のある文章を書きたいといつも思っているのに、そのためには文章を書き捨てなければならないとわかってもいるのですが、実際はそんな簡単なこともできず、未練がましくああでもないこうでもないと原稿用紙に言葉を塗り重ねていくたびに文章が濁っていって、ついには砂を噛むような味気ない言葉の羅列になり果てる、というのが今の自分の文章。ずっと目を背けてきた理想の書き方『文章は書き捨て』にまた向き合ってみようと思いました。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

近未来SF小説『エンタングルメント・マインド』シリーズの特設サイトです!

0コメント

  • 1000 / 1000