読書感想文 『新グッドバイ』 椎名 要(著)

 三十路を迎えるころになっても椎名は定職にも付かず、アルバイトで糊口をしのいでいた。しかしいよいよ家賃が払えないという段に至り、ついに、昔の彼女に電話を掛けてしまう。椎名と昔の彼女三人とのグッバイストーリー。


 表紙にもあるように、作者によるとこの短編は太宰治の『グッド・バイ』(未完)に範を取っているとのこと。本家『グッド・バイ』は、モテ男が女たちに別れを告げていくというコメディですが、こちらは逆で、かつてのモテ男(?)が昔の女に別れを告げられるというものです。モチーフ、あるいは換骨奪胎といったほうがいいかもですね。

 何でもできると根拠薄弱な自信に満ち溢れた二十代の若手と、酸いも甘いも知り尽くした四十代のベテランに挟まれた三十代は、一番中途半端な年代で、わたしはこれは大人の思春期じゃなかろうかと思っているのですが、一方で、その三十代は二十代の熱意と四十代の知識のどちらも持ち合わせている黄金の年代でもあるんだよなとも思っています。実際、会社でも一番活躍しているのは三十代だったりしますもんね。

 本作の主人公は、そんな大人の思春期に落ち込んでいますが、その一方で、女は強かに黄金の世代を迎えていて、その対比が情けなさと優しさとして表現されているんだろうな、と感じました。本家と同じく楽しめました。おもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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