読書感想文 『ガムランの音』 時岡 治(著)

 ブラック企業を辞めたアキラは、会社の女(佳代子)に連れられてバリ島に来ていた。そこでアキラと佳代子は、死に場所を求めてセックスし続ける。


 ガムランとはインドネシアの民族音楽のこと。その音楽が響き渡るバリの街で、アキラと佳代子は死に場所を求めてタクシーを走らせる、というストーリーなんですが、二人は常識を外れた行動(ほとんどがシモいこと)をしまくりながらという読者の理解を超えたところで展開される内容で、わたしの好きなタイプの小説でした(笑)。主人公も、何かおかしいということを自覚しつつなので、シリアスなのかギャグなのかよくわからない雰囲気になっています。どちらかというとシリアス寄りかな。

 根底に流れるのは、ブラック企業でこき使われて辞めさせられて、自分の存在に自信が持てなくなった主人公の、後ろ向きの暗い精神状態です。同じような境遇だったり、同じような精神状態だったりの人たちが、世の中には大勢いるんだろうなと思いますが、彼らが究極の手段を取る一歩手前で耐えているからこそ、この世は崩壊していないのでしょう。欲望に気持ちいいまま派手に死ぬことを望む主人公のこの物語が、同じような人たちの救いになればいいな、と思いました。おもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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