読書感想文 『左目のない彼女と五つのイデア』 浅黄幻影(著)
12歳の少年ヒムルは、食料雑貨店に通い詰めていた。お目当ては、そこで働くクレイアという30歳の女性。クレイアもヒムルが好意を寄せていることをわかっていたし、彼女自身もヒムルに恋をしかけていた。しかし二人の年齢差は親子ほども離れている。クレイアは泣く思いで自分の左目を見せ、ヒムルを諦めさせようとする。そこには、あるはずの左目は無かった。
冒頭、作者がこの物語を紡ぎ出すきっかけとなったできごとを綴っています。曰く、ラウンドアバウトでイデアを見た、と。イデア、この物語のテーマですが、辞書を引くと、「①プラトン哲学で人間の知覚によっては知ることのできない物の本質。② 理念、観念」ということだそうです。作者は、日常のちょっとしたことにイデアを感じ、そこに感覚的な美を見出してこの物語を綴ったということです。
物語は、アラフォー女子クレイアを中心に彼女に恋に落ちた二人の若年男の三角関係がクールに展開していきます。昼ドラ風ドロドロではなく、あくまでもキレイな雰囲気ですので安心して読めました。男女関係が逆(アラフォー男子が若年女子に言い寄られる)という設定だったら、いろいろな界隈から攻撃されただろうなと思います(笑)。
古今東西、わたしたちはいたるところに美を見出してきました。絢爛豪華な美に感嘆するのはもちろん、日用雑器に用の美を発見したり、わびさびという美意識も持っていたりします。作中における不完全さによる美も、その一部なのだと思います。その感覚的な美が恋愛に発展する、なんてロマンティックなんでしょう。
理屈では現すことができない美と愛を結び付けた、ステキな恋愛小説でした。おもしろかったです。
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