読書感想文 『誰かの視線』 吉田柚葉(著)
二年間務めた会社を辞めた私は、恋人のマチからの電話も無視してひとり煩悶していた。そんなとき、大学の後輩女子から朗読会を開くから来てほしいとの電話があった。中編。
物語は、起伏を期待させるシーンがいくつもありながら特になにも起こらず平坦に進んでいきます。途中差し込まれる”あの人”と両親の挿話も、意味ありげに読ませるのですが、本筋にどう繋がっているのか結局自分にはわかりませんでした。主人公の卒業論文は自伝的小説で、そのせいで未完成であり、なぜかその卒業小説が本作と重なるようにも思うのですが、それも尻切れトンボであっさり本筋から切り離されます。読者は、リズムを取ろうとしたらDJにサビを飛ばされる、それを何回も繰り返されて、踊ろうにも踊れない、そんな不完全燃焼のまま音楽終了、というイライラを感じることができます。これはもうわざとですよね(笑)。わたしは変則リズムにも乗れるタイプなので、とっても楽しめました!
あと読んでいて、会話での軽いボケや、オウム返しで聞き返すところ、ラフで丁寧な語尾になぜか太宰治の風を感じまして、あれ、気のせいかなと読み進めていますと、作中、太宰治に言及しているシーンが出てきて、ああやっぱり、と答え合わせをした気になって勝手に頷きました。もちろん、これはわたしの身勝手な想像ではあるのですが、そういう妄想も楽しめました。
おもしろかったです。
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