読書感想文 『スロー・アウェイーー或る老刑事の事件簿』 美野 博(著)

 定年を迎えた老刑事の山西には、ずっと引っ掛かっている事件があった。東京に大雪が降った日、政界のフィクサー小野嶋が風呂場で死んだ事件。その事件は心筋梗塞による病死とされたが、山西はあやしいと睨んでいた。しかし、その日に限って浴室にはカギがかかっていたのだ。山西はたったひとりで、密室の謎と小野嶋の死について調査を始める。


 まず一言、長いです。物語が大きく動き始めるのは後半からですので、それまでガマンです(笑)。

 主人公山西は警察を定年退職したあとにこの事件の再調査をし始めますので、警察でもないのにどうやって調べるのだろう、とフィクションとはいえ心配して読んでいきましたが、そのへんは山西もよくわかっていて、苦労しながら調査を進めていきます。じれったいながらもリアルな調査でした。ただそのリアルさが中盤までなかなか話が進んでいかない原因でもあるのです……。後半では、政財界の闇や、犯人とその裏にいる黒幕との関係などが絡んできて、一筋縄では解決できない難しさも多少誇張気味ですがリアルでした。

 山西がこの事件を掘り返してしまうことで、多くの人達の人生を変えてしまいます。真実を追い求めることが正義なのか、と問い掛けてくる重さと、罪を断罪するだけではない後味の悪さがこの作品の持ち味だと思いました。

 おもしろかったです。

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