読書感想文 『ふつうのこと』 加瀬ヒサヲ(著)
雨宿りのつもりで入った美容院で草壁渡は、美容師の相馬アヤコと出会った。自然と交際が始まり結婚。しかし彼と彼女の間には人には言えない秘密があった。それは一日にたった三分間しか会えないということだった。
一日三分しか会えないというシチュエーションとしては大げさな設定ですので、浮ついた雰囲気の小説なのかなと思って読み始めましたが、全く真逆の落ち着いた大人のラブストーリーでした。
とにかく二人とも真っ当なひとなので、お互いを思いやるこころも実に自然で、読んでいて応援したくなるような感じでした。この本は、目立つためにインパクト重視になっている昨今の商業本とは一線を画していて、びっくりするような設定も、どんでん返しも、ヒステリックな登場人物も出てきません。ですが、この本には精神の美しさが丁寧に書かれていますので、読んでいて、こころに浮いた錆が取れていくような心地良さ、あるいは砂漠の中にオアシスが現れたときのような光明を感じることができました。
一日三分だけしか会えないという設定については、理系人間からするといろいろハテナなところがいっぱいあるのですが(消えている間はどうしているのかや、周りの人にはどう見えているのか、など……)、この設定はあくまでも物語のアクセントにすぎないので、そういう世界なんだと思い込んで読むほうがストーリーに没頭できると思います(笑)。あと、過去と現在が同時進行していく書き方になっていますので、読む時は気を付けてください。わたしは最初混乱しました(笑)。
商業本にはない、セルパブならではの本だと思います。おもしろかったです。
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